「魔の参謀」といわれた男の、もう一つの顔
初めて聞く名前、辻政信。
一体何者?
蒋介石のスパイだった?
終戦のときには無数の軍人が精神的な衝撃を受け、精神錯乱や自殺をしたものが大勢いた。しかし辻政信は旧軍人の中で、最も早く精神的衝撃から回復した軍人、と言うよりも何一つ内面的な衝撃を受けなかった唯一の軍人だったのかもしれない。何しろ、8月15日の玉音放送より前に、自分の身の振り方を決意しているのである。ノモンハンをはじめとするさまざまな戦場で捕虜生還者に「恥を知れ」とばかりに自決強要や暴行を行ってきた辻が、敗戦を知るや否や、何の恥じらいもためらいもなく、逃亡計画に頭を使い始めたのだ。
本書を最後まで読んでくださった方は、本書の辻政信についての評伝部分の中間部分にサンドウィッチの中身のように蒋介石の政治的人生についての評伝が挿入されていて、ある意味で辻政信以上に熱意をこめて私が書いていることに気づいていただけたことと思う。私が本書で目指したのは、辻政信と言う悪魔の正体を追い求めると同時に日本人自身の手によって日本史の視点から、蒋介石伝説を破壊し解体することにもあったからである。