ただ自分で弾いて自分で楽しむ
今チェロを習っていますが、
そのような気持ちなのです。
現在自分の住処はどんなものであるかというと世間に普通一般に住屋といわれているものと比較すればそれは、もう住屋ということさえできないようなちゃちなものである。がこれで自分一人が住むにはまことに相応していて心持のより住屋であることには間違いはないのである。広さはわずかに一丈四方という小さなもので高さもそれに相当して七尺に満たないものなのである。いったい私はどこに住まなくてはならないという考えは全然ないのであるからここがよいとかあそこがよいとかなんてことは少しも考えないでただ気の向くままにどこへでも土台を組み、屋根を組んで板と板との継ぎ目には掛金をかけるのみでいたって粗末なものではあるが、それだけはいつでも気の向くところにいたって簡単に建てられるという便利があるのである。だから建ててしまってからでもそこに何か気の向かないことでもあればすぐに壊してしまってほかの場所へ移って行くのである。
私の琵琶を弾ずる技能は決して上手であるとは言い得ないのであるが、誰のために弾くということもなく、ただ自分で弾いて自分で楽しむのだからこれで充分なのである。自分はその曲を弾いて爽やかな気持ちになって落ち着いて自分の生きていることを楽しみ、山の孤独の寂しさを慰められればそれで結構なのである。