歴史上の病気と医学
味方の兵士を傷つけることなく、敵方を病気でやっつけてしまう細菌戦は、ウイルスや細菌などの病原体が知られていない時代にもあった。１４世紀にヨーロッパに壊滅的な打撃を与えたペストの流行の発端は黒海のクリミア半島にあったジェノヴァの植民地を包囲したタタール人が、自軍の流行病の死体を市内に放り込んだからだ。そこから逃げ出した船が、地中海沿岸のあちこちにペスト菌をばらまいた。新大陸でのアメリカ先住民に対しても、ヨーロッパ人は痘瘡や麻疹患者の毛布や衣服などを意図的に渡していた。
Ｔ４作戦の目的は「生きるに値しない命」を清算することで、その人たちの医療や介護を行っていた医師や看護婦を動員し、病院や施設を戦争での負傷兵の病院に転用することだった。機械的な流れ作業による殺人のノウハウは、アウシュビッツなどでのユダヤ人のホロコーストへと発展していった。
ナチス・ドイツの「優生政策」の実態 〜安楽死計画「Ｔ４作戦」など〜
アメリカ大使館でグルー大使や斎藤内大臣夫妻と歓談して帰ってきたばかりの侍従長夫妻は、麹町三番町の官舎で安藤輝三大尉の率いる部隊に寝込みを襲われた。「マテマテ、話せばわかる」という鈴木侍従長にピストルが発射された。とどめを刺そうとする安藤大尉に、泰然と座っていた夫人が、「武士の情けとして、とどめだけは私に任せてください」と止めに入った。気迫に押され、安藤大尉は何もせずに敬礼をし、部下とともに鈴木邸を去った。
