パンドラの壺
知っているようで知らない。
バラバラの知識が収斂してゆきます。
トロイア戦争の折に、あの有名な木馬を城内に引き入れようとしたとき、必死になって反対したのは、だれあろう、このカッサンドラであった。
彼女の眼にははっきりと見えたのだ。
夜陰に紛れてギリシアの兵士たちが、続々と木馬の中から這い出してくる様が・・・。トロイアの城に火が放たれ、城塞が次々に崩れ落ちるさまが・・・。兄弟たちが流すおびただしい血の色が・・・。女子どもの悲しい泣き声も明晰に耳の奥に響いたに違いない。
見れば見るほど、何の変哲もない、ただの壺だ。
----すこしだけのぞいてみようかしら--------
長い逡巡の末、とうとう彼女は我慢できなくなって壺の封を切り、そっと蓋を動かしてみた。その瞬間、壺の中から、もやもやと怪しい形のものが立ち昇り、周囲を満たし、たちまち四方に飛び散った。
「あっいけない」
パンドラは叫んだ。
