別荘は買わない

つもりです・・・が先のことは誰にもわかりません。

企業戦士の田舎暮らし

 

トラウマの国ニッポン (新潮文庫)

トラウマの国ニッポン (新潮文庫)

 

 

 

トラウマの国

トラウマの国

 

 

鈴木さんは苦笑い。家の前の畑を二十坪借り、無農薬でダイコンやトウモロコシ、ネギをつくっているが、・・・。
◇◇
「それがですね、野菜というのは一気にできちゃうんですね。ダイコンならダイコンが同時に大量にできちゃう。とても食べきれないし、友人に持って行ってもいらないと言われちゃうし、結局、収穫しないで、そのまま鍬で搔き回して、畑の肥やしにするんです」
収穫しない有機農法。釣りで言うキャッチアンドリリースである。

 

 

緑豊かな別荘地。鶯がさえずり、実にのどかな風景が広がっている。念願の年金暮らしで、森田さんに経済的不安はないというが・・・。
「のんびり田舎暮らしというのは、絶対ウソです。田舎で暮らすと、皆さん情緒不安定に陥ります。精神面がとにかくキツいんです」
◇◇
働き通した企業戦士たちの言うなれば「のんびりできない症候群」。たまに味わうと心地よい大自然も、毎日いれば「飽きる」。特に男性の場合、人付き合いがすべて会社経由だったため、退職後には電話の類いもプッツリと途絶え、この隔離感が深くなるらしい。田舎暮らしを始める人の多くが客間などが充実させ、いつでも人が遊びに来られるようにとバーベキューセットなどまで準備するが、三年もたつと誰も来なくなる。客間などは掃除が大変になるだけで心身ともに負担が大きい。

 

「野菜作り?全然興味ありません。野菜はいただくだけで結構です」福沢さんは笑った。
◇◇
味わうのは空気と風景。「田舎」にこだわらないのが山の手流なのである。とはいえ、移住者たちが困惑したのは、予想外の冬の厳しさだった。
「標高千メートルで気候の良い所と聞いていたのに冬が大変です。もともとこの地区は雪の少ない土地という触れ込みだったんですが、近年は毎年ドカ雪。いつまでも住んでられないわな、というのが正直な感想です」
マイナス15度を下回る寒さ。霜が降りて物置は浮き上がり、大雪で雨どいは落ちる。洗濯物も乾かず、ボイラーも凍結。ちなみにこの地は凍結深度が80~120センチメートルとされており、基礎を深く掘らないと建築許可も下りない。加えて床暖房などを入れるとなると、コストがかなりかさむのである。福沢さんがこぼす。
「田舎暮らしは決して安上がりではありません。外に凍結防止の配線もあるので、光熱費もかかる。どこに行くにも車が必要ですから、ガソリン代、整備点検と、かえって都会の方が安く済みますよ」

 

釣りの腕前に自信のあった石田さんは、パンフレット通りの生活を思い描いたのである。「実際、海に出ると、一回の漁で10キロ釣れたりするんだよね。すごいでしょ」-----すごいですね。
「でも全然楽しくないんだよね。同じ魚ばっかり釣れるし、たくさん釣るために電動リール使うから、糸を垂れてクッと合わせる引きの感覚もないし、とにかく疲れる。」-------なぜ楽しくないんでしょうかね。
「やっぱり仕事だね」 石田さんが明確に答えた。「仕事で疲れて、休みに釣りで発散する。釣りの楽しみを味わうには、やっぱり仕事しなきゃダメなんだよね

 

  

災害とトラウマ

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